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22 緋ざくら駕篭


(解題)
つばめ出版発行。 本編160ページ。 昭和38(1963)年4月頃に出版された。 『書籍雑誌卸月報』では3月の出版予定になっている。 三上於莵吉の名作時代小説「雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)」が元ネタであることは一目瞭然。 さらに、この『緋ざくら駕篭』が出される直前の昭和38年1月13日に公開された市川崑監督・長谷川一夫主演の映画「雪之丞変化」からのパクリと思われるシーンもある。 原作小説を自由に換骨奪胎するにあたって、権力者に対抗する主人公の動機が、原作では家族を殺された恨みと復讐心であったのに対し、『緋ざくら駕篭』では苦境に立たされている恩人への義理に変更されている。 そのため、物語の必然性がやや弱い印象であるのは否めない。 なお、この作品は、後年改題され『お役者変化』としてつばめ出版から再版された。

(あらすじ)
上方で人気を博した名女形中村千之助は、江戸興業のための東下りの道中で、幕閣で権勢を誇る石島嶽翁の一行に出会う。 その中の「姫」と呼ばれた嶽翁の養女・糸路もまた千之助を見て幼馴染みのことを思い出していた。 千之助達が泊まる宿屋に来島藩の重臣今出が訪ねてきた。 今出は千之助にとって大恩人であった。 折しも、来島藩には存亡に関わる一大事が起きていた。 来島藩は、石島嶽翁を通じて特産物運搬のための巨船の建造を公儀に願い出たはずであったが、その申請を嶽翁が握り潰したために、改易の窮地に陥っていた。 疑いを晴らすには申請書を取り戻すしか法は無い。 大の芝居好きである嶽翁から隙を見て申請書を奪って欲しいと恩人から頼まれ、千之助は快諾する。 目的達成のため、千之助は幼馴染みに瓜二つの糸路姫に近付くが…。


(補足/by風かをる)
この作品は「雪之丞変化」と「男の花道」という二作品を下敷きにしています。 歌舞伎関連の作品でそれぞれが何回か映画化され、好評を得ています。 一作品で十分見所があるので、一冊の本に納めるには少々無理があったかなと言う感じがします。 簡単に言えば「雪之丞変化」は復讐話、「男の花道」は男の友情話です。 それぞれの作品の山場を外したため物足りなく感じてしまうのかもしれません。