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48 無常日月記 前編/怒涛の巻

(解題)
つばめ出版発行。 本編130ページ。 昭和41(1966)年7月頃に出版された。 全二巻。 作者曰く「社会の底辺」にスポットを当てた野心作で、数奇な流転の運命に操られた男女の愛をじっくりと描く。 『小島剛夕長篇大ロマン』を全て読んだ人なら、この「無常日月記」が過去に発表されたある作品の焼き直しであることにすぐ気付くだろう。 その作品とは、第24巻『角兵衛獅子』である。 例えば、「無常日月記」前編における、佐渡島に流された主人公・時次郎が数年後に島抜けする設定や、法を厳守する目明し・辻の万吉が終始時次郎を追い駆ける展開、ヒロイン・お久美の境遇に同情する「糸甚」の若旦那・宗之助の存在、その宗之助との間にお久美は娘・お珠を儲けるが幸せは長く続かず若旦那に先立たれる展開などは、「角兵衛獅子」の中で繰り広げられるシチュエーションととてもよく似ている。

その一方で、大きく違うところもあり、お久美が前編のラストで死んでしまうことや、時次郎に密かに想いを寄せる女旅芸人・おえん、万吉親分の名声を妬んで悪事を働く目明し・水神の源造(前編では源助)、お珠を攫って逃げる六蔵といった多彩な登場人物は、「無常日月記」のみのオリジナリティーである。 波乱に富んだ物語を少ないページ数の中に詰め込み過ぎて消化不良に終わった「角兵衛獅子」の骨組みを一旦バラバラにし、設定や展開をより深く掘り下げたうえで再構築した作品と言えよう

(あらすじ)
幼い頃から無宿人の時次郎は、病気の父親を抱えて健気に働くお久美と知り合って以来、心を入れ替えて真面目な生活を送るようになった。 だが、幸せは長く続かなかった。 病状の悪化した父親の世話に窮したお久美は、彼女に懸想する若旦那のたっての願いもあり、父親の医療費と引き換えに、大店の「伊予金」で住み込みの小間使いとして働くことになる。 お久美を忘れられない時次郎は、彼女を取り戻すべく再び悪の道に走る。 しかし、目明し・辻の万吉は、それを見逃さなかった。 スリに失敗した時次郎は、お久美の様子を窺うべく彼女の家の前にやって来る。 その時、お久美の悲鳴が聞こえた。 時次郎が中に入ると、「伊予金」の若旦那が倒れていた。 手込めにしようとした若旦那を、お久美は身を守るため咄嗟に刺し殺してしまったのだ。 お久美の幸せを願う時次郎は、彼女の身代わりに罪を被った。 不審を抱いた万吉は、真実を突き止めるべく奉行に再調査を願い出るが、その直後、江戸の町を大火が襲った。 囚人たちは一時的に解放され、時次郎は牢内で一緒だった六蔵と行動を共にするが…。